決算書上の「無借金」にこだわってはいけない | vol.406

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役員報酬を会社に貸し付けて、自転車操業を繰り返していた例


雑貨店(実店舗)を数店舗経営している社長が、地元の会計事務所に出店のしかたを相談したら、こう言われたそうです。

「役員報酬の額を増やして、そこから役員が会社にお金を貸し付けて、その資金で出店していきましょう」

その会計事務所の言うとおり、銀行からは1円も借りずに、役員の給料を貸し付けていくやり方をして、さらに店舗数を増やしていきました。
そのかわり、役員の口座には、まったくお金がありません。
お金が貯まったら店舗を増やす、の繰り返しです。

しかも、会計事務所の指示で、「1店舗1法人」にしていました。

たしかに、新会社を設立することで、 2年間消費税が免税になったり、 2段階税率の恩恵を受けられるので、メリットはあります。法人税額も1店舗800万円までは低い税率が適用されるので、1法人で複数店舗持つよりもよさそうです。

でも実は、これは会計事務所が儲かる仕組みなのです。

毎月決算期をつくれば、利益をつけ回しをすることができ、税金を払わなくて済みます。
結果、会計事務所はすべての会社から顧問料と決算料をもらうことができるわけです。

この会社は会計事務所のアドバイスに疑問を感じるようになりました。


銀行からの融資を開始するも、銀行の言いなりに


そして、その会社の社長は会計事務所を変え、新しい会計事務所の提案で、「銀行から融資を受ける」ことにしました。

社長が地銀に「2,000万円融資してください」と相談すると、地銀は「根保証をつけてもらえれば大丈夫です」という回答を受けました。
(「根保証(ねほしょう)」ってなんだっけ?という方は解説記事を以前書きましたのでご参考ください。無知な社長では銀行と対等になることはできない | vol.384 )

社長は、根保証という言葉をはじめて聞いたので、会計事務所に「根保証をつけてほしいと言われたのですが、どうしたらいいですか?」と相談すると、会計事務所の担当者は、こう答えたそうです。
「それはごくごく普通のことですから大丈夫ですよ。みんなやっていますから」

社長は「みんなやっているのであれば安心だ」と思って、2,000万円の融資を受けました。

* * * * *

数カ月後、もう一度同じ銀行に追加で1,800万円の融資を申し込みます。

資金使途は、新店舗の出店資金です。
銀行は、今度も承諾してくれました。

ただし、1,500万円の定期預金作成を条件にされました
どうして、1,500万円の定期預金を作成する必要があるのか。
(これは、歩積両建(ぶづみりょうだて)と呼ばれる手法です。歩積両建については、以前の解説記事をご参照ください。新規取引銀行の提案は既取引銀行との融資にもプラスに働く | vol.390

社長は、会計事務所に「定期預金作成が条件と言われたのですが、どうしたらいいですか?」と相談をします。

会計事務所の担当者は、またしても、こう返事をしたそうです。
「それは大丈夫です。みんなやっていますから」
社長は「みんなやっているなら安心だ」と考え、定期預金を作成しました。

* * * * *

さらに数カ月後。新たに出店が決まりました。三たび銀行を訪れた社長は、1,500万円の融資を相談します。
銀行は、今度もすんなりオッケーしたそうです。

でも、今度は、信用保証協会の保証付きを条件にされました。

社長は、また会計事務所に相談します。

会計事務所の担当者は、今度もこのように返事をしたそうです。
「それは大丈夫です。どの会社さんもみなさんやっていますから」

* * * * *

社長は、根保証も、定期預金も、信用保証協会付き融資も「それが普通のことだから」「みんながやっていることだから」という理由で、銀行と会計事務所の言いなりでした。

このブログを読んでいる方なら引っかかることはないのでしょうけれど、創業社長というのはゆっくり金融取引について勉強する時間は、まず、ありません。新しい商品、サービスを作り、営業し、注文をいただき、売上金を回収することで手一杯なのです。

この社長は徐々に銀行交渉のしかたを学び、担保や保証を外していき、複数の銀行から融資を受けることにより、事業規模を拡大していきました。
現在、この会社は6行(地銀2行、信金3行、信組1行)と取引をしています。
銀行を6行に増やして借入額を増やしたことで、資金繰りは安定し、社長は事業に専念できるようになりました。

そして現在も、各銀行と対等な関係で取引を継続し、積極的な出店を続けています。

きょうもここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
あなたの不動産投資事業が成功することをお祈りしております。
トランクルーム大家より。